エボラ危機に直面した病院の危機管理から学ぶ

※本記事は、2014年10月19日に高橋がブログに掲載した記事を再掲載したものです。


自らの看護師2人をエボラ熱に院内感染させてしまい、世界的に注視が集まる米ダラスのテキサス・ヘルス・プレスビテリアン病院は10月10日(金)、危機管理広報サポートのため、米大手PR会社バーソン・マーステラを採用した。その後、同病院は積極的にプレスへの情報提供、さらにソーシャルメディアを活用した情報提供を行ってきている。一人目の感染した看護師ニーナ・ファンさんの病室での動画をプレスに提供したこともその一つである。

バーソンの親会社であるWPPはこの危機管理プロジェクトの方針について当然のことながら口をつぐんでいるが、その後に打ち出した矢継ぎ早の広報活動を見る限り、良い方向性に行くよう努力の跡が見られる。

まず同病院はプレスに対し、病院として落ち度があったことを率直に認めた。院内感染の原因ははっきりしていない段階でのことである。この姿勢表明は、実は危機管理広報の中で非常に大きな意味を持つ。この姿勢を表明せずぐずぐずしていれば、世間やメディアからの病院への「非を認めていない」との批判が必ず大きくなってくるためだ。

Presbyterian Hospital

病院関係者だけでは適切なクライシス対応はむずかしかった

同病院の今回の素早い対処は、もしも病院経営者だけで協議をしていたとしたら、なかなか実行できなかったのではないか。その意味でも広報専門家(外部だけでなく、内部にも広報責任者がいるわけだが)の関与が絶対にあったはずだと考えられる。アメリカの大病院では大抵、広報の専門家がハイレベルのポジションにいるものだ。

たしかに原因がはっきりしていない段階では、だれでも公に謝りたくはないものだ。今後の法的責任問題のことも頭に浮かんでしまうだろう。また、日本の医療機関のこうした場合の危機対応と比較してしまえば、やはりその迅速な危機対処はコミュニケーションの重要性が浸透しているアメリカならではだと思う。さらに言えば、日本の医療機関は「内部の恥を外部の人に知られたくない」ということで、外部専門家を雇うこと自体忌避する傾向が認められ、それ以前の問題もある。

一方で、同病院は全米看護師連合から「適切に医療従事者の訓練と保護を行わなかった」として批判を受けており、依然として深刻なレピュテーション危機が続いている。

内部向けのコミュニケーションが外部向けと同じくらい重要

米国の医療危機管理広報専門家も指摘しているが、こうした場合、内部(医療従事者)向けと外部(プレス、一般市民)向けのコミュニケーションの双方が同じくらい、しかも死活的に重要だ。

内部向けには「病院は全力を挙げて職員を守る」という姿勢を示し、職員に安心を与えること。Eメールや動画の活用などが考えられる。また、職員だけでなく、その家族、理事会、投資家などさまざまな内部関係者がいるわけだから、それらに優先順位を付け、それぞれに対するメッセージ作成と伝達を行う必要がある。

一般市民からの問い合わせに丁寧に対応する姿勢も重要

一方、こうした場合、一般市民向けにはウェブサイトやソーシャルメディアを通じて情報提供するだけでなく、寄せられた質問にも誠実に回答する姿勢が米国では今や必須となっている。同様に、外部の医療等の専門家からの質問にも回答するチャネルをつくることも含まれる。

10月12日、さらにニュースが入ってきた。同病院が地元の新聞2紙「ダラスモーニングニュース」と「フォートワーススター・テレグラム」に全面謝罪広告を掲載した。病院経営者の名前で「(最初の患者である)ダンカン氏がアフリカへ旅行していたという事実がよく伝わっていなかった。この点について大変申し訳なく思っている。職員への教育・訓練が完全ではなかった」と病院の過失を認め、謝罪した。こうした一連の徹底したクライシスコミュニケーション(危機管理広報)の方法を見ると、やはりかなりプロフェッショナルなものを感じる。

ダンカン氏がエボラ熱と診断されたのは入院から3日後。広告は「この病院はCDC(米疾病予防センター)と協力して対応向上に努めており、従業員と患者さんにとって安全な場所です」と締めくくっている。

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