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誤るのが美徳の日本人、謝らないのが美徳のアメリカ人(9)

ギリシャ修辞学に始まる西洋コミュニケーション文化

儒教などの東洋文化に強い影響を受けた日本とは対照的に、西洋世界のコミュニケーション文化は古代ギリシャのレトリック(修辞学)に源流がある。 彼らが使う「アポロジー(apology)」(謝罪)という英語は、ギリシャの「アポロジア(apologia)」という言葉に由来する。

ソクラテスは「弁明」の中で「謝罪」しなかった

アメリカの哲学者であるケリー・ロス氏は、有名なプラトンの著書『ソクラテスの弁明』について、以下のように興味深いことを指摘している。

プラトン
ソクラテス

 プラトンによる『ソクラテスの弁明』の中で、ソクラテスは謝罪もしていなければ、言い訳すらしていない。ソクラテスは自分が悪いとは思っていなかったのだ。ギリシャ語の「アポロジア」は、単純に「弁護」とか「弁護のスピーチ」という意味しか表わさない。この意味は、関連するいくつかの英語にも受け継がれている。たとえば、「アポロジスト(apologist)」はだれか(何か)のことを弁護する人を指し、「アポロジェティックス(apologetics)」は何かを擁護するための弁論法、とくにその理論、根拠、慣行を指す。

アメリカ人の謝罪は「おや、悪気はなかったんだ」

アメリカ人が日々の生活の中で人に謝るときによく言う台詞は、「おや、申し訳ない。悪気はなかったんです(Oh, I’m sorry. I didn’t mean it)」であるが、日本人の場合は「本当に申し訳ありません。お詫びします」である。西洋のレトリック(修辞学)は、そもそも人を説得する術である。修辞学は、いまではその言い方はいささか古くさくなったが、これはこれで大変有用な考え方であり、その後の世界に巨大な影響を与えてきた。西洋のコミュニケーションが古代ギリシャのレトリックから来ていることを知れば、東洋と西洋の違いも理解しやすい。

「I’m sorry」は「申し訳ない」より「残念だ」の意味

ヒラリー・クリントン氏

 南オレゴン大学のエドウィン・バティステラ教授(言語学)は、自著『Sorry about That: The Language of Public Apology』の中で、ヒラリー・クリントン女史が1994年に国民健康保険改革の導入失敗について謝罪したことについて、以下のように分析している。

   ヒラリー・クリントン氏はジャーナリストにこう答えた。「健康保険制度導入に向けた私たちの努力が、その文脈から離れてひどく誤解され、現政権に対する攻撃に使われていることについては、大変残念(sorry)です。私には責任があり、そのことについて大変残念に思っています。

 果たしてクリントン氏は謝ったのであろうか。彼女は何度も後悔の言葉を口にはしたが、彼女の後悔は健康保険制度改革を誤解 した人々についての後悔なのである。「残念(Sorry)」という言葉は、何らかの状況に対する後悔(regret)を意味するものであり、他者を傷つけたことに対する後悔ではない。彼女の「sorry」は、「あなたの本をなくしてしまって申し訳ない」ではなく、それよりむしろ「あなたからの電話を取り損なってしまって残念だ」という意味合いでの「sorry」なのである。(高橋眞人)



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