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謝るのが美徳の日本人、謝らないのが美徳のアメリカ人(10)

「切腹」をもっとも気高い行為と捉える武士道

 中国の儒教(とくに陽明学)を学び、日本で発展させたものが武士道である。新渡戸稲造 (1862-1933) の手による世界的に有名な『武士道』という著作があるが、この中で新渡戸は主に西洋人向けに、日本武士の「切腹」の精神について説明を試みている。

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 切腹という死に方は、私たち日本人の心には、もっとも気高い行為、あるいはもっとも感動的な悲しみの儀式を連想させる。したがって、日本人の切腹という考え方には、なんらの嫌悪感も、ましてや嘲笑されることなど一切ないのである。徳や偉大さや優しさなどの多様さには驚くべきものがあり、もっとも惨い死に方でさえ崇高さを覚え、新しい生命の象徴にさえなるのである。


(新渡戸稲造『武士道』)

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 したがって、新渡戸が主張しているように、日本の武士道において切腹はもっとも崇高な価値のある行為とみなされていたわけである。おそらく日本人の自己を貶める形の謝罪は、このように自殺行為を徳とみなす武士道の考え方に源を発しているのではなかろうか。また、新渡戸は、なぜ日本人が一般に、忍耐強くかつ従順であるのかについても分析を加えている。

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 私たち日本人が苦痛に耐え、死を怖れないのは、神経の細やかさが欠けているためだと言われてきた。… しかしそれならば、なぜ私たちの神経はそれほど張りつめていないのか。…私個人としては、日本人が非常に激しやすく、感じやすいために、常に自制を意識し、強制する必要があったからだと思うのである。…しかし、どのような説明をしたところで、長い年月における克己の鍛錬を考慮に入れなければ、どれも正しい説明とは言えないだろう。


(新渡戸稲造『武士道』)

「言い訳しない、不平を言わない」は武士道の影響

 新渡戸が洞察しているように、日本人は危機発生時の記者会見で、滅多に言い訳したり不平をこぼしたりしない。こうした日本人のどんなときにも冷静さを失わない態度は、おそらく武士道に由来している。

『葉隠』は、日本の武士道に関するもう一つの著名な書物である。武士道とは中世武士の倫理規範であり、献身や忠誠心、武術の習得、質素・倹約を重んじ、死を崇高なものと考えるが、ヨーロッパの騎士道の精神とも似ている。『葉隠』は、江戸時代中期に佐賀藩鍋島藩士の山本常朝(1659-1719)が武士としての心得を口述し、それを同藩士田代陣基(つらもと)がまとめたものである。『葉隠』の初めに以下の有名な一節がある。

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 武士道と云うは死ぬことと見付けたり。二つ二つの場にて、早く死方に片付ばかり也。別に子細なし。胸すわって進む也、図に当らず、犬死などいふ事は、上方風の打ち上りたる武道なるべし。二つ二つの場にて、図に当るやうにする事は及ばざる事なり。我人、生る方がすき也。多分すきの方に理が付べし。もし図に外れて、生たらば、腰ぬけ也。此境危き也。図に外れて死にたらば、気遣いにて恥にはならず。是が武道の丈夫也。毎朝毎夕、改めては死々、常住死身に成て居る時は、武道に自由を得、一生落度なく家職を仕課すべき也。

(山本常朝『葉隠』)

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 これを現代語に訳すと以下のようになる。

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 二つのうち一つを選ばなければならない状態、つまり死ぬか生きるかというような場面では、死ぬほうに進むほうがよい。むずかしいことではない。腹をすえて進むだけのことである。思ったようにいかない場合を考えるとか、それでは犬死にだなどという意見は、上方風の 思いあがった武士道である。二者択一の場で思ったようにするなどということは、そうそうできることではない。自分も人も生きるほうが好きである。おそらく好きなほうに理屈がつくであろう。しかし、もし選択を誤って生き延びたとしたら、腰抜けである。思ったように行って生きるのと、思ったように行かないで生きることとは、紙一重の差である。うまく行かず死ぬことになっても「気違い」だというだけで恥にはならない。これが武士道の一番大切なところである。毎朝毎夕、いつも死ぬ覚悟をしていれば、武士道の自在の境地に達することができ、一生失敗することがなく、家職をまっとうすることができるのである。

「自らを貶める」が強化された武士道

 日本人の謝罪の仕方は、自分自身を貶めるために意図的に自己卑下する行為でもある。自身の正当性を訴える西洋のコミュニケーション文化とは対照的な日本人の自己を貶める文化は、より直接的には、武士道から由来しているとも考えられる。 (高橋眞人)

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