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謝るのが美徳の日本人、謝らないのが美徳の日本人(15)

会見に一度も姿を見せなかった米潜水艦の艦長

 2001年2月10日、ハワイのオアフ島沖で、アメリカ海軍の潜水艦と日本の高校の練習船・えひめ丸が衝突し、練習船が沈没して、乗船していた高校生4人と教師5人が死亡するという悲劇的な事故が起きた。潜水艦のスコット・ワドル艦長は、ハワイで何度となく開かれた米海軍の記者会見に、一度も姿を見せなかった。南オレゴン大学のエドウィン・バティステラ教授(言語学) は次のように述べている。


 多くの日本人がその声を直接聞きたがっていた人物、それは事故を起こした米海軍潜水艦のスコット・ワドル船長であったが、彼は初め、沈黙を守っていた。ワドル船長がメディアの前に姿を現さなかったことは、アメリカの不誠実と反省の無さの象徴となった。死亡した高校生の父親は事故を「許されない」とし、ワドル船長については「人間なら膝をついて謝り、許しを乞うべきだ」と述べた。ワドル船長の弁護士が出したステートメントにはこう書かれてあった。「衝突事故で亡くなられた方、怪我を追われた方のご家族の皆様、そして日本人の皆様に対して、心からの後悔を示します」。事故の生存者と家族らは、このステートメントが不誠実で人間味がないとして拒絶した。

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 日本人家族らは、いったいワドル船長が自分の行動について責任を取るつもりがあるのか、説明しようと考えているのか、疑問に感じるようになった。実はワドル船長自身も不満に思っていた。彼は海軍が個人として謝罪しないように命じていたことに腹を立てていた。それで海軍を除隊した後、2002年12月に愛媛県へ飛び、事故の生存者と犠牲者の遺族に個人として謝罪したのである。


 (エドウィン・バティステラ『Sorry About That: The Language of Public Apology.』)


米海軍の行動が「不誠実」であると憤った日本人

当時連日のように大きく報道されたえひめ丸沈没事件

 当時、多くの日本人がえひめ丸衝突事故のニュースをテレビで見た。多くの人々が米海軍の行動に対して怒っていた。社会心理学の我妻洋らによれば、「アメリカの企業が事故や不祥事で指弾されたとき、アメリカ人の幹部たちは自分たちの責任を認めなかったり逃れたりしがちである。そして被害者と直接会うことを避ける傾向がある」という。



誠実に謝罪すれば責任があることを意味する欧米の慣習

法学を専門とするオランダ・アントウェルペン大学のダニエル・コイペルス教授 は「謝罪すれば、自分に責任があることを意味してしまう。であるからこそ、法律的に言うならば、謝罪するのは問題だ。自分に罪があることを明らかな形で自白してしまうことになるからだ。それ故、謝罪は裁判で加害者の責任の立証、つまり有罪に結び付く。加害者に謝罪を強要することは、被告が沈黙を通す権利を明らかに侵害してしまっている」と指摘している。

 イギリスの小説家P・Gウッドハウスはこう書いている。「決して謝らないというのは人生において良いルールである。正しい考えを持つ人々は謝りたがらないし、間違った考えをもつ人々は他人の謝罪につけこむ」。バティステラ 氏も「アメリカ人にとって、日本人の謝罪は自罰的に見えるかもしれない。一方、日本人にとっては、アメリカ人の謝罪は自分の利益のために嫌々やっているように見える可能性がある」と述べている。



日本では謝罪行動が刑罰の代わりとなっている

 一方、我妻洋氏らは、アメリカと日本の裁判制度において、謝罪の言葉がどう異なって受け止められるかを以下のように説明している。


 アメリカの法律では、誠意のある謝罪の言葉を述べることは、自分の責任を認めたと受け取られる意味で不利に働く可能性がある。このような謝罪の言葉が証拠として採用されるようなルールは、裁判官が中心となっている日本の裁判制度には当てはまらない。日本の制度が著しくアメリカと異なっている部分は、裁判のプロセスが原告と被告の双方に和解と譲歩を求めている点である。日本では、謝罪を述べたり、とくに謝罪文を書いたりすることは、刑罰を課すその代わりとして使われている。そしてその結果として、裁判官はより穏当な判決を下すのである。

(我妻洋ら『 The Implications of Apology: Law and Culture in Japan and the United States 』


  アメリカでは、誠意のある謝罪は自己の責任を認めることになる。これに対して、日本における謝罪は、法による制裁が軽いことを補うための数多くの社会行為の中の一つである。 (高橋眞人)

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