謝るのが美徳の日本人、謝らないのが美徳のアメリカ人(18)

私用メール問題で謝罪を拒否し続けたヒラリー・クリントン
オバマ政権で国務長官を務めた元弁護士のヒラリー・クリントン氏が、国務長官であった時代、法に触れる私用電子メールアカウントを業務用に使用していたことが後に発覚したとき、ヒラリーの友人やアドバイザーたちは何か月にもわたって彼女に謝罪することを勧めたが、ヒラリーは謝罪を拒否し続けた。彼女の行動は法律の範囲内であり、 謝罪することは、それを正当化するだけであるというのが彼女の主張であった。その後の2015年9月、ヒラリーはやっと折れて、謝罪を表明するに至った。
もしこれが日本の政治状況であったなら、「長引かせるより、早期に謝罪して事態を収拾するのが得策」という判断になっていたのではないかと思われる。
アメリカの弁護士のアドバイスは「謝罪するな」
もしあなたの会社が製品の不良が原因で消費者に損害を与えたとき、いったいどのように振る舞うべきかをアメリカの弁護士や保険会社にアドバイスを求めたとしよう。すると、どのような意見が返ってくるだろうか。「もし謝罪してしまえば、自分の責任を認めることになる。簡単に謝罪はしないことだ」とのアドバイスが往々にして返ってきがちだ。
クライアントのために闘う弁護士チーム
「謝罪するな」は解決を遅らせる可能性も
ところが、このアドバイスを実行すれば、実は事態の解決にとってマイナスに影響する可能性がある。 これまでの欧米社会を含めた研究により、公的な謝罪が傷付いた企業の評判を回復させる有効な手段となり得ることを、さまざまな研究が示している。
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謝罪した人を「証拠採用」から保護するアポロジー法
その結果として、近年、多くの州が「アポロジー法」を制定するようになっている。カリフォルニア大学のジェフリー・ヘルムライク准教授(法哲学)は以下のようにアメリカのアポロジー法について説明する。
1986年を手始めに、「アポロジー法」と呼ばれる法律を制定する州がますます増えている。これは、加害者が被害者に謝罪しても、そのうち少なくともある種類の謝罪に関しては法廷で加害者の不利な証拠として使われないように保証することによって、加害者による謝罪を促進しようとするものだ。ところが、こうした法律のほとんどは、全面謝罪した人を証拠採用から保護するためにはまだ足りない。とくに「あなたにそのような被害を与えてしまい、申し訳ありませんでした」といったような後悔や罪悪感、自己批判の表現については、保護が適用されないのである。アポロジー法は単に「お気の毒に思います」といった共感や「ご回復の役に立てれば」といった善意の表明について、法的な証拠採用から守ってくれるに過ぎない。
(ジェフリー・ヘルムライク「Does Sorry Incriminate – Evidence, Harm and the Protection of Apology」)
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企業の謝罪を考えるとき、部分的謝罪と全面的謝罪の二種類に分けることができる。部分的謝罪とは心配や後悔の表明である。全面的謝罪とは因果関係を認識し、自社に責任があることを認め、状況の改善を約束し、許しを乞うことである。
企業の経営者は、危機に際して自社の責任をどの程度承認するべきかというレベルに応じた形で、対応戦略を選択しなければならない。
アメリカで「謝罪する権利」を回復する動き
ヘルムライク氏は、全面謝罪であっても部分的謝罪であっても、自分の責任を認めることに使われないようにすべきであると主張している。こうした、個人が全面謝罪と部分的謝罪とを問わず謝罪をしたときに、責任を問われないよう保護されるべきであるという主張は、アメリカにおける「謝罪する権利」を回復する動きであるとみることができるだろう。 (高橋眞人)