米国の危機対応が優れているのは事前にシミュレーションを行うから
コロナウイルスのシミュレーションで6500万人死亡の結果に
米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センター、世界経済フォーラム、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は2019年10月18日、これまでにはなかった規模のコロナウイルスの世界的流行のシミュレーションを3時間半かけて実施していた。その結果、最善の努力にもかかわらず、世界で6500万人が死亡するという結果が出たという。
不気味な直前の実施だが完全なフィクション
2020年1月以降の新型コロナウイルスのアウトブレイクを知っていたかのようなシミュレーションだが、まったくそれは知らず、完全なフィクションとして実施した。
最高の専門家15人を集めて実施
シミュレーションは、米疾病管理予防センター(CDC)、国連、民間企業のウイルス対策専門家や経営者ら15人がニューヨークの会議室に集まって行われた。これらの人々は、実際のパンデミックにおいても対策を立てる可能性がある面々だ。
空路移動を制限しても拡大は止められず
シナリオは、ブラジルで、豚のウイルスが接触した数人の人間に感染したところから始まる。ウイルスは当初は南米の貧困地域に広がり、航空便や人の移動が制限された。各地で航空便はキャンセルされ、旅行の予約は 45%減少。ソーシャルメディアではさまざまな噂や偽情報が出回り始めた。ウイルスは6か月以内には世界中の人々に感染し、1年半経過した時点で6500万人が死亡するという結果になった。
金融危機が発生し、経済が下降
世界的な金融危機も発生し、株式市場は 20%から 40%下落し、世界の国内総生産は 11%下落したという。このシミュレーションでは、科学者たちはパンデミックの拡大を阻止できるワクチン開発を間に合わせることはできなかった。
ジョンズ・ホプキンスが感染者シミュレーターも開発
ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターは、空路による都市間移動者数などから感染拡大の程度をシミュレーションし、それを視覚化するプログラムもすでに開発していた。テレビ等でもよく見る、今回の新型コロナウイルス感染者数予測で活躍している視覚化されたシミュレーターは、このジョンズ・ホプキンスが開発したシステムである。
世界のハイリスク空港も予測
シミュレーションの結果を受けて、彼らは政府と民間が即座に実行できる7つのアクションリストを作成した。いわゆる危機マニュアルである。世界中のリスクの高い50の空港も予測したという。50の空港(中国は除外されている)の中には、タイやシンガポールの空港のほか、日本の関西国際空港(9位)、成田国際空港(22位)、中部国際空港(23位)も上位に挙げられている。
健康だけではなく経済・社会にも影響を及ぼす
このシミュレーションを主催したジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの科学者エリック・トナー氏は「新しいパンデミックが引き起こされるとすれば、その可能性が最も高いウイルスはコロナウイルスであると長い間考えていた。私たちが 10月に行ったシミュレーションで指摘しようとしたことは、ウイルスによるパンデミックが生み出すものは、健康への影響だけではないということだ。経済にも社会にも影響を与える」と話している。
米国が有事対応に優れているのはシミュレーションのおかげ
米国人が有事対応に優れているのは、過去70年間常に戦争と向き合ってきたためだといわれる。しかし、もっと大事なポイントがある。米国人は平常時から、最高の専門家を集めて、ありとあらゆる過酷なクライシスケースをシミュレーションしている。
ありとあらゆるクライシスを想定
危機(クライシス)はもちろんウイルスや細菌だけではない。同時多発テロ、戦争・核攻撃、原子力事故、大地震、大津波、火山噴火、大洪水・・・。 そのため、当然、対策マニュアルも整備できる。そして、それを蓄積している。欧州各国も中国も台湾もほぼそれに倣って追随している。
日本ではなぜかシミュレーションも事前対策も好かれない
マニュアルが完備されているから、いざというときに果敢な対応が取れる。米国が早期の渡航制限に踏み切ったのは、そんなところに原因がある。日本では、一部のシンクタンクや大学が若干はやっているものの、公的にこういったシミュレーションや事前対策に取り組むのがなぜかあまり好きではないようだ。しかし、クライシス対応は、こうしたところに如実に差が出るものである。(高橋眞人)