東京五輪に対する抗議運動にスポンサー企業はどう対応すべきか
東京五輪が約1か月後の7月23日からに迫ってきたが、相変わらず五輪開催へのネガティブな報道が続いているため、約1万1千人といわれる出場予定の選手やその関係者だけでなく、日本だけでなく海外の五輪スポンサー各企業も頭を悩ませている。このまま行けば、引き続きネガティブな報道が続いていく可能性が強く、スポンサー企業も五輪絡みの広告宣伝が非難や懐疑の目を向けられる可能性があるためだ。
日本国内の抗議運動が世界に影響を与える
世界中の報道にネガティブな影響を与えているのが、まず日本国民と日本政府が五輪開催による大勢の人々の来日で新型コロナが拡大することを非常に心配しているという事実だ。五輪開催中止を求めるオンライン請願は43万筆以上を集めたほか、NHKが6月11~13日に実施した世論調査では、5月実施の調査と比べるとかなり減ったとはいえ、「中止する」と答えた割合はまだ31%もあった。ちなみに、「これまでと同様に行う」3%、「観客の数を制限して行う」32%、「無観客で行う」29%という結果。こうした日本国内の空気が海外の報道を通じて、世界の世論にも東京五輪のイメージに対するネガティブな影響を与えている。
「まったく楽しみのない東京五輪」
そのうえ、IOCからは選手団とその関係者に対し、日本滞在中のセックス、飲酒、パーティー、観光を禁じる通達が出されており、規則を無視すれば最終的に国外追放される可能性もある。ほかの国の人々に近づくことも禁止されている。観光客の訪日も大幅に規制される可能性が高く、観客はマスク着用が義務付けられ、応援で叫ぶことも禁じられ、代わりに拍手することが奨励されている。海外の報道では「まったく楽しみのない東京五輪」と報じられている。海外でも、オリンピック開催の意義を問い直す論調まで生まれている。
海外では五輪反対運動はスポンサーにとって長年の懸案
そこで海外の五輪スポンサーは、この問題にどう対処しているのだろうか。これまで五輪スポンサーは、費用はかかるものの、世界中の膨大な視聴者が約束されていたため、絶大な宣伝効果が見込めていた。1業種1社のルールも、業界最大手企業にとって小さくない魅力だった。
ところが、今年の五輪の状況はこれまでとは変わったといわれている。いや、厳密に言えば、ソチ五輪(2014年)やリオ五輪(2016年)あたりからネガティブな報道にスポンサー企業が巻き込まれる現象が起きてきていた。
今年の東京五輪は、主に日本国内における抗議行動やネガティブな報道により、すでにそのイメージが傷つけられている。開催中まで抗議運動が続くことはほぼ確実だ。そもそも政治的・思想的な五輪中止運動は、海外各地において日本国内より根強く続けられてきている。
海外スポンサー企業は東京五輪にどう対応しようとしているのか?
このため、海外のスポンサー企業は、五輪問題で自社にとばっちりが来ないだろうかと、息をひそめて情勢を見守っている。そして、欧米企業のスポンサーの中には、すでに抗議運動のターゲットにされた場合の被害を最小限にする行動計画を練っている企業が少なくない。その実例は以下のとおりだ。
●企業が五輪を後援することは、五輪反対活動家の主張を退けることを意味しないことを、身をもって示す。たとえば、反対活動団体に自社のウェブサイトの一部で彼らの主張を掲載するなど。
●事前にホスト国(日本)の反対活動家と会い、彼らの不満を聞き、採用できる主張は採り入れる。開催中も含め、継続的に意見交換を行う。
●反対運動団体が平和的に抗議を行う限り、これらの活動が許可されるように協力する。
●報道機関とも友好的な関係を築き、五輪委員会と反対運動団体やマスコミが対立的な関係にならないように協力する。
五輪とスポンサー企業の関係も岐路に差しかかったのか
こうした海外企業は、日本国内より先鋭的な反対運動家を相手にしてきているため、日本国内ではこれほどの対策は不要なのかもしれないが、日本企業にとっても参考にできる点はありそうだ。
いずれにしても、五輪と社会、五輪とスポンサーの関係も、一種の岐路に差しかかっているのかもしれない。(高橋眞人)