人の幸福感を増加させる在宅勤務・テレワークへのシフトは止まらない
緊急事態宣言が全国的に解除され、職場への通勤も再開しつつあります。「もう電車に乗って会社まで行きたくない」という悲鳴があちこちから聞こえてきます。いったん家に落ち着いて、仕事もできてしまっていたとなれば、「なんでまた会社に行かなきゃいけないんだろう」と憂鬱になってしまう気持ちはよく分かります。
在宅勤務・テレワーク実施企業は2倍に
新型コロナウイルスの大流行は、リモートワークの世界的な大規模実験につながりました。ウォンテッドリーが2020年5月初めに実施した調査の結果、日本の企業の実に46%が在宅勤務・テレワークを義務化または推奨していました。24%だった4月から比べると2倍以上に増えたそうです。
自殺者は2割減少、人々の幸福感はアップ
2020年4月の日本の自殺者数は例年より2割も減りました。ウイルスが人を殺していたのではなく、実は会社や学校が人を死に追い込んでいたことがはっきりしてしまいました。柴原明子さんが実施した150人調査によれば、自粛期間中の人々の幸福感はアップしていたそうです。理由は「通勤の苦痛から解放された」や「仕事は減ったが気が楽になった」など。今後は、パンデミックが去った後でも、在宅勤務・テレワークに向かう流れは止まらないでしょう。
パンデミックのおかげでリモートワークを学んだ企業と労働者
これまでは在宅勤務を増やそうという掛け声は聞かれても、実際にはなかなか増えませんでした。これは長年の労働慣習に加え、テレワークを実施管理するための設備と手法が経営側に不足していたことが原因でした。しかし、今回のパンデミックで、リモートワークに必要な設備への投資が促進されたうえ、管理者側も労働者側も経験を通じてリモートワークを学ぶこととなりました。
給与より在宅勤務を選ぶ人が増える
もちろん、企業がどんなに努力しても、自宅で行うのがむずかしい仕事も多くあります。しかし、テレワークでも勤務しやすい専門職や20代~30代の若手社員が好んで在宅勤務ができる企業を選んで勤めたがるようになるでしょう。あるいは独立する動きも加速するかもしれません。これから社会に出てくる若者はなおさらそのような選好が高くなります。つまり、給与やステータスよりも在宅勤務できるかどうかを重視する人々が増えていきます。
働きやすい自宅選びや地方移住も増加する
せっかくリモートワークできても、自宅で働きにくければ仕方ありません。在宅勤務しやすい間取りの住宅を選ぶ人も増えるでしょう。同時に、どうせ離れて仕事できるならと、海や山が近い地方やリゾートに住みたいと考える人も増えてくるでしょう。
米国でも同じです。米国のエコノミスト、スーザン・アセイ氏は「人々は労働習慣を変えるだろう。パンデミックにより、これまでゆっくりだったテレワークへのシフトが加速されている」と述べています。
企業のコストも大幅に節減される
在宅勤務には無論、メリットもデメリットもあります。メリットとしては、労働者は基本的に在宅勤務を好む傾向があり、また温室効果ガスの排出量が削減され、オフィス面積を減らせるのでコストも大幅に節減できます。労働者、とくに女性は仕事と家庭の両立が容易になります。その結果として、労働者の生産性を高める可能性があります。おそらくは労働者の夜の付き合いによる外食費・交際費は減り、その分を生活費に回すことができるかもしれません。企業にとっては、社員の通勤交通費手当が不要になる可能性があります。
社員の管理をどうするかが問題
デメリットはなんでしょうか? まず在宅勤務社員の管理がなかなかむずかしいことです。生産性への影響も不確実です。また、労働者が孤立感や寂しさを感じやすくなる可能性はあります。また、サイバーセキュリティが脆弱となり、ハッキングや情報流出が起きやすくなる可能性がないとはいえません。しかしこれは技術の進歩でカバーできるのではないでしょうか。
職種による格差拡大が問題となる
もう一つの問題点は、在宅勤務できる人は、高収入の専門家的な仕事に就いている人である傾向があり、在宅勤務の仕事と職場に通勤する仕事との格差が拡大する可能性もあります。たとえば、永続的な在宅勤務・テレワークの積極導入企業として有名なのは、フェイスブックやツイッターなどの米シリコンバレー企業です。
永続的なリモートワーク推進をリードする米ハイテク企業
フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、社員の大多数が今から5〜10年でリモートワークできるようになると発表しました。ツイッター社CEOのジャック・ドーシー氏は一歩進んで、社員に無期限に在宅勤務できるオプションを与えました。
グーグルも、可能な社員には2021年までにリモートワークさせる計画です。マイクロソフトは今年10月までは在宅勤務を選べるようにしました。カナダの電子商取引大手ショッピファイは、パンデミックが去った後も社員5千人全員の在宅勤務を認めます。デジタル通貨両替所コインベースは「リモートファースト企業」になると宣言しました。
デジタル音楽配信のスポティファイは2021年までオフィスを閉鎖し続け、社員のほとんどは永続的にリモートワークさせるとのことです。CEOのトビアス・ルッキ氏は「オフィス中心主義は終わった」と語っています。
すべての人々がデジタル革命に参加できなければならない
米国のデジタル革命を推進するロー・カンナ下院議員(民主党)は「アメリカ人はどこに住んでいるかに関係なく、デジタル革命に参加できなければならない。これを実現するために新型コロナウイルスを利用するということではないが、フェイスブックやツイッターのようなテクノロジー企業が社員のリモートワークを進めた結果、ハイテク企業では仕事のために移動が必要なくなったことは喜ばしい」と述べました。
日本企業の動きも欧米よりは遅いものの、全体としてはその方向性に向かっていくのは間違いないでしょう。(高橋眞人)