日本企業もウイグル問題の対応を誤れば最大級の危機に

新疆ウイグル自治区の強制収容所の労働と関連したビジネスが「間接的に人権侵害に加担している」と世界的に糾弾されており、その世論が日に日に高まっています。同自治区の強制収容所では、大勢のウイグル人のイスラム教徒が再教育されているほか、中には強制的に不妊手術などを受けさせられるような人権侵害が行われ、収容されたウイグル人による強制労働で多くの製品が作られているという事実も各国で報じられています。

実際には強制的に無賃労働させる労働キャンプ

中国政府は「職業訓練センター」であると主張していますが、有刺鉄線、監視カメラ、武装警備員に囲まれているため、実際にはウイグル人、カザフスタン人などの少数民族が無料またはほぼ無料で働くことを余儀なくされている労働収容所が多くあるといいます。

日本企業もアパレルやエレクトロニクスなどの12社が明確に社名を挙げられ、問題の渦中に放り込まれました。日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ、シャープ、無印良品です。

広報・危機管理担当者の奮起が求められている

西側世界の人権侵害を非難する声がきわめて大きくなっているため、大企業であっても、対応を間違えれば事業の存続にも関わる最大級の危機となります。当然、広報・危機管理担当者にとって、全精力を投入して乗り切らねばならないクライシスといってよいでしょう。

しかし、日本企業は消費者や投資家が企業に求める人権意識の急速な高まりを、正しく把握しているでしょうか?これまでの市民団体の質問状への対応のような、ぞんざいな対応では進むべき方向を誤る可能性があると思います。

国連も当然のことながら、ビジネスと人権に関する指導原則で、ビジネス慣行に関連する実際および潜在な人権侵害を防止および軽減するよう企業に求めています。

世界的な批判のターゲットに浮上しつつある日本企業

ところが、日本ではたとえば、パナソニックが日本ウイグル協会からの質問状に対して「1社のみ未回答」となり、同協会などから批判を浴びました。日立製作所は一応回答しましたが、「行動規範や人権方針に沿って行動している」という基本方針だけがメールで短く書かれた回答で、これも批判の対象となっています。

大企業各社はホームページなどで美しい言葉の人権方針を掲載していますが、いま求められているのは人権団体や消費者、投資家を納得させる具体的な記述でしょう。

次々に新疆との取引を中止する欧米企業、日本企業と温度差も

欧米では、アディダスやH&M、イケア、ナイキといったグローバル企業が参加する「ベター・コットン・イニシアティブ」が昨年3月、ウイグル産のすべての綿花から認証シールを撤回しました。その結果、イケアやH&Mはウイグル地区からの綿の購入を停止しています。パタゴニアも、昨年7月、新彊ウイグル地区からの素材調達をやめることを表明しました。

一方で、日本企業で世界にも展開する無印良品の「新疆綿」シリーズは、現在も販売されており、国際的な批判の対象となっています。明らかに、グローバル企業と日本企業の間には温度差があるようです。

カゴメの英断が歓迎されている

こうした動きを受けて、新疆ウイグル自治区で生産されたトマトを加工したペーストを輸入していたカゴメが、輸入中止を決定しました。同社はコストや品質に加え「人権問題が判断材料のひとつになった」と説明。人権団体などから歓迎されています。彼らのトマトを輸入する事は間接的にウイグル人弾圧に加担していると批判されていました。カゴメもこれまで、ウイグル人弾圧に関与する生産集団が生産したトマト加工品を購入することで、間接的に人権侵害に加担していると非難されてきていました。

新彊ウイグル地区で栽培される綿花を輸入して「新疆綿」を生産している今治タオルも、炎上しました。

海外企業も批判を浴びてきた

海外企業も批判されています。米国の人権団体はこれまで、アバクロムビー&フィッチ、アディダス、アマゾン、BMW、Gap、H&M、インディテックス、マークス&スペンサー、ナイキ、ノースフェイス、プーマ、PVH、サムソン、ユニクロ、良品計画などが人権侵害に加担している疑いがあると指摘してきています。

ウォールストリートジャーナルによれば、アディダスやクラフトハインツ、コカコーラ、ギャップが同自治区から原料を調達しています。フォルクスワーゲンは2013年から新疆ウイグル自治区に製造工場を持っていますが、2019年4月、新疆ウイグル自治区での中国政府による大量拘留について「知らない」と述べたCEOが非難を浴びました。

ドイツのシーメンスは、新疆ウイグル自治区での大量拘禁をサポートする監視ツールの供給企業として、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチから批判されています。

欧米で高まりつつある人権擁護の強硬意見

英ガーディアン紙は「新疆ウイグル自治区と関連するすべての外国企業は、取引や事業提携を終了する必要がある。また、世界の消費者は企業に説明責任を負わせることもでき、新疆ウイグル自治区でのすべてのビジネスパートナーシップの終了を要求するか、製品のボイコットを検討する必要がある」と主張しています。

「現地の監査も今や難しいのに、どうすれば自社のサプライチェーンが強制労働とは無縁だと証明できるのか。米中両政府を怒らせずに労働者の人権問題にどう声を上げて対処すればいいのか。現場の調査に力を入れて、かえってウイグル族の立場が一段と厳しくなるのを防ぐにはどうすればいいのか」という企業側の声もあります。しかし、いままさに企業の「人権」に対する感度が問われています。

中国市場では逆に不買運動も

一方、海外ではアパレルやスポーツ用品業界で、新疆ウイグル自治区産の綿花を使わないと表明した企業が中国で逆に不買運動に遭っています。H&M、ナイキなどは、中国のソーシャルメディアで逆批判を浴び、中国の消費者からボイコットされています。

それでも、企業が中国に配慮した発言をすると、今度は欧米や日本で批判にさらされることとなり、企業は非常に難しい選択を迫られています。

あっちにもこっちにも良い顔はできなくなってきた

しかしながら、欧米西側社会の人権の価値観と、中国市場における販売の両方を満足させるという虫のいい方針は、ますます難しくなっているというのが、現在の情勢であると考えられます。(高橋眞人)

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