伝統的メディアが影響力を失えば、そのとき広報・PRはどうするのか
信頼を失いつつある伝統的メディア
米国では、新聞、テレビ、雑誌といった伝統的メディアが、かつてのような消費者からの信頼を失いつつあるといわれています。消費者の間で、伝統的メディアに対する不信感がこれまでになく高まっています。スマホがほとんどの人口に普及したおかげで、人々は新聞を購読しテレビを所有する必要すらなくなってきています。日本もこの現象を2~3年遅れで確実に追随しています。一見緩慢に見えるこの動きですが、10年、15年単位で後から振り返れば、いまがまさにその激動のさなかにあるとわかるはずです。
変革が求められる広報・PR
長らく伝統的メディアの影響力に頼ってきた広報・PRのプロにとって、これはなかなか厄介な現象です。この時代のトレンドに対して、どのような有効な対応策を取り得るでしょうか?
消費者はどのように情報を得るのか?
ところで、質問です。あなたの会社の顧客、消費者は、いったい何を信頼し、商品を買うための情報をどのように得ていますか?従来通り、既存メディアの新聞、テレビ、雑誌ですか?テレビCMや折込みチラシですか?インターネットメディアでしょうか?ブログやSNSといったネット上のクチコミでしょうか?リアルのクチコミの力が大きいですか?それとも街頭看板広告でしょうか?
デジタルと非デジタルに二極分化する消費者
現状を大きくとらえれば、消費者は大きく二つの層に分化しつつあります。一つは、情報の入手をインターネット上のデジタル情報にもっぱら頼る層であり、他方は新聞やテレビ、雑誌といった伝統的メディアにもっぱら頼る層です。そのうち前者が急速に拡大し、後者が急減しています。
効果をどう測ればよいのか
その結果、多くの企業のマーケターやPR専門家は、マーケティング戦略の立て方や自分たちの仕事の成果測定にも苦労を強いられています。今やオールドメディアの部数や視聴率だけでは、自分たちの仕事の影響力を測ることはむずかしくなっています。効果測定は適切で正確でなければ、正しい戦略は導けないといえるでしょう。
消費者はちっとも困っていない
そこで大事なことは、実は消費者は、たとえ伝統的な新聞やテレビへの関心を以前より失ったとしても、商品選びに関してはちっとも困ってはいないということです。インターネット上の情報を中心に、商品選びに関する情報自体は爆発的に増え、その中から好きな情報を選んで参考にすることができるからです。また企業自身から発信される情報も格段に増え、情報の質も向上しています。
多様化する情報源
一方では、ネット上を中心に消費者に影響を与えるインフルエンサーやマイクロインフルエンサー(ある特定のコミュニティやジャンルで強い影響力を持つインフルエンサー)の影響力に注目が集まってきています。
総じて、消費者が頼りにする情報源は、以前と比べて多様化しているといえるでしょう。ただ、数ある情報源のなかでも、伝統的メディアは引き続き、多くの大衆(マス)に情報を届ける力を持つ非常に有力な存在ではあり続けるでしょう。その一方で、あらゆる消費者の情報収集のためのアクセスが、スマホという一点に集約されつつあることも事実です。
伝統的メディアにしがみついていられる時代は終わった
PRのプロにとっては長いこと、世の中に対する情報提供のツールは、プレスリリースという大変便利な代物でした。しかし、このように情報のメッセンジャーが多様化する現代にあっては、伝統的メディアだけを対象にした古いPRの教科書に書いてあるようなプレスリリースの形では、まったく物足りないといえるでしょう。PRのプロが伝統的なメディアとの関係(メディアリレーション)を追求するのは、広い意味での数あるうちの戦術に過ぎず、目的やゴールではありません。
人々の関心のありかへの洞察力が基本
それでも、昔もいまも、一つ共通する原理原則があります。伝統的メディアもマイクロインフルエンサーも、同じ人間の関心のうえに成り立っています。いつの時代も、その時代に生きる人々が関心を持つ情報が閲覧されることになります。その意味で、企業もしくはPRのプロがニュースの創造に参加するためには、人々の関心に対する洞察力と創造性が必要であることに変わりはありません。当然のことながら、誇張や虚飾があっては、情報の信ぴょう性、ひいてはその企業への信頼が失われます。(高橋眞人)