小学校低学年でもオンライン授業が成立するのだろうか

遠隔授業に関して世界でももっとも進んでいる米国では、大学生や専門学校に関しては、これまでも非常に多くの学生がオンラインで学んできた。オンライン授業だけで卒業できる大学も少なくないほどだ。中学生以上であれば、オンライン授業が成り立つのはわかる。ほとんどの生徒がPCの前に座っていられるからだ。だが、小学生や幼稚園児はどうなのか?結論からいうと、米国では新型コロナウイルスの影響で、6歳の小学生でさえ、オンラインによる遠隔学習に移行しつつある。

速いスピードで進む授業のオンライン化

米国では、ほかの多くの国々と同様、何百万人もの人々が自宅にいるように求められており、子供も例外ではない。こうした状況を受けて、教師たちはいままさにオンライン授業への移行のさなかにあり、この新しい授業形態を成り立たせようと試行錯誤しているところだ。だが、その移行のスピードは非常に速い。2020年3月中旬から全米のほとんどの地域で学校が閉鎖されるとともに、オンライン授業への移行が開始されている。

オンライン教育向けに多彩なアプリ・ウェブサービス

基本的に用いられているのは、ZoomやGoogle Meetなどのビデオ通話アプリ。また、Google Classroomというウェブサービスも子供たちに人気で、採点、フィードバック、生徒とのコミュニケーションが行える。Webexはシスコが提供するテレビ会議サービスで、Flipgridはわりと年少の子供を対象とした動画ベースの学習ツールだ。Haiku Deckはプレゼンテーションツール。i-Readyはリーディングや算数を教えるツール。Noodle Toolsは大学レベルのリサーチツール。NoRedInkは外国語学習ツール。Seesawとは学校と保護者が連絡を取り合うコミュニケーションツールである。各学校とも、こうしたツール・アプリを組み合わせて使用しているところが多いようだ。Zoomは幼稚園から高校までの教師向けの使用上の指針をウェブ上で公開した。

教師たちはオンライン教育の構築で試行錯誤

アリゾナ州の公立小学校で教えるキャシディ・カートさんは「さまざまな教育方法を試している。ビデオ会話アプリの使用は、生徒とコミュニケーションがとれる唯一の手段としてとても役に立っている。直接会えなくても、私たちが同じクラスにいることが実感できる」と話す。

それでも、ニューヨークの私立小学校の理科教諭、ケイト・マコーリーさんは「新しい教育方法に適応するのはなかなかむずかしい。でも、地域の皆さんが非常に柔軟で、多くの点で理解してくれ、寛容なので幸運だった」と話す。幼い子供たちの注意を引き続けるのは難しいため、多くの学校では、短い動画プログラムを組み込んで、1日の在宅学習カリキュラムを組んでいるという。

ニューヨーク市の公立小学校で4年生を教えるジュリエット・グアリノバーグさんは、予め授業を録画しておいたビデオの使用からスタートした。今後、徐々にZoomを使った授業に移行する予定だ。このような順番で行うことにより、Zoomを使う技術環境に徐々に慣れることができるという。

アリゾナ州のキャシディ・カートさんの学校では、主にGoogle Classroomを使用している。彼女は子供たちのために、前夜に授業計画を保護者に送っておく。「私の授業計画は、徹底的に毎日同じカリキュラムにしがたって、家庭でも一貫した学習習慣をつけさせようとしている」と話す。

文字が読めない子供はどうするのか

一方、ニューヨークのマコーリーさんによると、自分の6歳の子供にとってはGoogle Classroomは難しかったという。まだ子供が文をよく読めない場合、「PCを操作するのはかなりむずかしい」という。

実際に、多くの年少の子供たちは、PCの操作で苦しむことになる。そのため、毎日、保護者の手助けが必要となる。子供が小さいほど、在宅学習は保護者に大きく依存せざるを得ない。ある意味、保護者が「先生」の立場に復帰することになる。

といっても、すべての家庭に日中、手助けをしてくれる保護者がいるわけではない。そこが学校の苦心のしどころだ。家庭環境やニーズが異なる生徒のために、教師は創造性を発揮せざるを得ない。

教師はさまざまな児童・生徒に対し、オンラインで最善の方法を伝授する方策を模索している。カンザスシティの公立小学校で4年生を教えるカリー・ベイカーさんは、言葉を十分にマスターしていない子供たちのオンライン学習を支援する方法はむずかしい」という。

まず解決すべきネットアクセスの問題

米国においてさえ、PCやインターネット環境がない家庭は全国に少なくない。この問題を解決しなければ、前には進まない。そのため、多くの学校区では、iPadなどのモバイル機器を貸し出ししたり、各家庭にChromebookを配送したり、インターネットアクセスのない家庭向けに利用できるモバイルホットスポットを設置したり、小学校の周りにだれでもがアクセスできる無料Wi-Fiを導入したりしている。

オンライン授業の急増に伴い、Zoomを使った授業になにものかが侵入し、授業荒らしをするという事件も発生。セキュリティ問題にも焦点があたっている。生徒同士のチャット、つまり雑談、おしゃべりの問題もある。マコーリーさんによれば、「チャットは常に監視する必要がある」という。

「子供たちが恋しい。会えて嬉しい」

ある小学校教師は「21年間教えてきたが、つい2週間前までは自分の教え方はかなり上手だと思っていた。今ではクラスをまとめるのに苦労している」と語る。しかし、教師たちにとってオンライン授業の導入は多くの苦労があるものの、「子供たちが恋しい。子供たちの顔が見られるのはやはり嬉しい」という声が大勢ではあるようだ。(高橋眞人)

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