政治的二極化と分断の時代に企業はどう対応すべきか
ここ数年、社会の政治的分断が加速化しています。左翼・リベラルの考えを持つ人々と保守・愛国的な考えを持つ人々の二極化が起き、ことあるごとに対立が激しくなっています。憲法改正、尖閣主権侵害への対応、スパイ防止法、中国の人権侵害への対応、外国人による土地買収の問題、敵基地攻撃能力の問題、新型コロナへの対応、選択的夫婦別姓問題、女性・女系天皇の問題など、あらゆる問題で対立が激化しています。
政治的二極化は世界的な現象
これは日本だけの現象ではなく、欧米諸国でもまったく同様の現象が起きています。
アメリカなどは日本よりさらに対立が激しく、社会主義と白人支配の打破、既成文化の破壊、移民容認を叫ぶ左翼グループと、伝統と国益を重視し移民の流入やウォール街支配に反対するトランプ支持グループが各地で武力衝突を起こすなど、対立がより先鋭的になっています。
政治的分断はかつてないレベルに達している
これまでも政治的な対立や二極分化はありましたが、近年の政治的分断はこれまでのレベルを超えています。問題は政治的対立にとどまらず、この対立が経済、社会、文化のあらゆる方面に持ち込まれ、こうした政治的対立から距離を置きたい人々も否応なしに巻き込まれ、翻弄される事態が起きていることです。
関係ない人にまで自分の主張を押し付ける風潮
水泳の池江璃花子選手のSNSに最近、五輪代表の辞退を求める意見が寄せられるようになり、本人を苦しませているというニュースがありましたが、これもその一つの例でしょう。「自分の政治的主張を関係のないスポーツ選手に押し付けるな」というのが正論なのでしょうが、それだけで済まなくなってしまうのが、社会的対立が先鋭化した時代なのです。
政治的二極化を招いたソーシャルメディア
そうした現象を引き起こしている原因の一つは、ソーシャルメディアの普及でしょう。互いに同じ意見を持つ人々同士のやり取りが毎日繰り返されることで、自分の思想が強化され、「敵」に対する敵意が増幅されていきます。政治的意見の二極化が進み、中立的立場というものが一体なんであるのか、ますます分からなくなっています。新聞、テレビといった既成メディアは「中立」「不偏不党」を標榜し、その努力を続けてきたのは事実だったと思いますが、社会の二極分化の時代にあって、その「中立」「不偏不党」の看板も色褪せ、それを信じる人々も少なくなってきました。
経済環境の悪化が政治不信を増幅させている
もう一つの原因は、経済的環境の悪化です。過去30年間、グローバリゼーション(外国人労働者の増加、生産拠点の国外流出、経済統合、関税協定)や生産の自動化により、国際的大企業が利益を向上させる一方、多くの人々の所得水準、生活水準は切り下げられてきました。これにより、既成の政治体制に対する反感が世界的現象として強まっています。
左右両極の社会改革運動家は正反対のことを言っているように見えますが、実は社会の困窮から来る改革の要求という意味でその根は同じであり、解決策が異なるだけだという言い方もできるのかもしれません。
企業にとっても政治的分断を看過できなくなってきた
企業にとっても、これまでのようにこの政治的分断を看過しているわけにはいかなくなってきたようです。たとえば、これまでは問題とされてこなかった強制収容所に収監されたウイグル人労働者を使った日本企業の製造過程が世界的な非難を浴びるようになってきました。諸外国では、人権蹂躙に加担する企業の製品をボイコットする勢いです。
企業にとっては、これまで当然の認識として乗っかってきた共通の土台が失われつつあるといってよいでしょう。政治がビジネスの世界にますます入り込んできたということもできます。こうした政治的分断が激化する現象にどう対処すべきなのでしょうか?
企業の社会的な意思表明は避けられなくなってくる
一つの見方をご紹介しましょう。米ドレクセル大学のダニエル・コルシュン教授(マーケティング学)は、「人々の見方がより二極化し、極端になると、中立的立場はなくなっていく。だが、企業は一定の立場を取ることで消費者の忠誠心を獲得し、利益をもたらすことができる。消費者は製品以上のものを購入したがっている。彼らは自分が誰であって、何を求めているのかを確認するために購入するのだ。企業は社会的な意思表明によってその意味でも説明責任を負うことになるが、企業が社会的存在である以上、この流れは避けられない」と主張しています。
スポーツシューズのナイキは、CM広告で人種差別問題を正面から取り上げた最初の企業でした。社会的物議を醸し、一部の消費者は抗議しましたが、ナイキの売上高は急増したそうです。
日本の消費者の政治的意識が果たしてここまで高いのか、やや疑問はありますが、日本の社会情勢もおそらくこの方法に進んでいるといって良いのではないでしょうか。
外食チェーンのグローバルダイニングは東京都からの時短命令を違法として損害賠償請求を行っただけではく、要請を無視して各店舗の営業を続けましたが、ゴールデンウィーク中の同社店舗は大繁盛だったといいます。消費者は同社の政治的主張に賛同して食事をしに来たわけではないでしょうが、同社がリスクを冒して社会的主張を行ったことは事実です。
プラットフォーム企業の中立性は守られなければならない
その一方、コルシュン氏は「企業活動が特定の政治的過激主義を支援するために用いられる可能性があり、これは危険だ」とも警告しています。
いまや西側のインターネットの言論を支配しているとさえ言えるフェイスブックやグーグルといったハイテク巨大企業は、米民主党に巨額の政治献金をしていることがプラットフォーム企業として守るべき中立を踏み越えているのではないか」と批判を受けています。(高橋眞人)