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前澤友作氏のスペースX英語スピーチは失敗だったのか?

2018年9月17日、異色の天才経営者イーロン・マスク氏の宇宙旅行会社「スペースX」が売り出した月旅行の民間人搭乗者第一号に、スタートトゥデイの前澤友作社長が決まり、二人が共同で記者会見を行いました。ここで前澤氏は約10分の英語によるスピーチを行ったのですが、その出来ばえについて賛否両論が興っています。

前澤氏の英語スピーチに賛否両論

そこで私は、前澤氏のスピーチを視聴したうえで、賛否両論についても読み比べてみました。ポジティブ評価の代表は、広瀬隆雄氏(米国在住が長い投資顧問会社経営者)の記事「ZOZO前澤友作SpaceX本社における英語のスピーチはなぜ100点満点?」http://blogos.com/article/325887/で、ネガティブ評価は安倍かすみ氏(ニューヨーク在住ジャーナリスト)の記事「前澤氏が世界初の月旅行へ。記者発表を見ながら考えた、アメリカ人とのビジネスで知っておいた方がいいこと」
https://news.yahoo.co.jp/byline/abekasumi/20180919-00097460/。そして、その中間的な意見が、小林恭子氏(ロンドン在住ジャーナリスト)による「ビジネスピープルと英語 前澤社長の英語スピーチをどう評価? ――多文化都市ロンドンから見ると・・・」https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20180920-00097595/ です。以前、安倍首相が米国議会で英語スピーチを行ったときも、やはりそれへの賛否両論が沸き起こりました。日本人にとって、有名な日本人による海外での英語スピーチは、どうにも気になるもののようです。

米国人が呼びやすいニックネームを提供した前澤氏

広瀬氏が前澤氏の英語スピーチを評価したポイントはいくつかありました。私なりにまとめると、①報道陣が「いったい誰だ?」と思っているところに前澤氏が悠々と歩いてきて期待感が高まった、②態度が堂々としていて余裕に満ちていた。たとえば「Thank you, Elon.」とお礼をいって「Thank you, everyone.」と報道関係者にお礼を言った(これを広瀬氏はスピーチの基本だが、日本人のほとんどがなかなかできないと評している)、③「Wow!」という感嘆の声を発した(これも広瀬氏は日本人にはできないことであると指摘した)、④「I’m from Japan.」という発言で口火を切ったのが効果的だった、⑤「You can call me MZ」と米国人に呼びやすいニックネームを提供し、親しみをもってもらいやすくした(これを広瀬氏は前澤氏による自らのブランディングであると評している)。

私も米国に住んでいたときは必ず「Please just call me Matt」と呼びやすいニックネームを提案していました。広瀬氏の指摘はいずれもたしかにその通りであると思いますが、ただ私としては、どの指摘も小細工的なテクニックであり、それが米国人をはじめとする世界中の人々が前澤氏に対してどのような人物として印象づけられたのかどうかは、また別のところにあるのかなと感じてしまいます。

もう一点気になるのは、広瀬氏が前澤氏の英語スピーチの出来に対して手放しの賛辞を送る自分の記事に「前澤氏の英語のスピーチはなぜ100点満点」と職業ジャーナリストでは口がゆがみそうな甘い見出しをつけた点です。広瀬氏は前澤氏に近いポジションから記事を書いているのかなあとも感じられました。

ネイティブにとって聞き取りづらいアクセント

次に、前澤氏の英語スピーチにネガティブな評価を下したニューヨーク在住の安部かすみ氏の記事。安部さんの評価ポイントは、①英語のアクセントが米国人や英語ネイティブにとって聞き取りづらく、Bad Englishの話し手として印象づけられた、②前澤氏が何度も「英語が下手」と卑下していたのは不要だった、③椅子に座って質問を受けているとき、左側の椅子の袖に寄りかかっていたが、こうした席では背筋を正して真っ直ぐに座るべき―といった点です。

これらの評価は、ニューヨークに住んだ経験も、同地でスピーチコミュニケーションを学んだ経験もある私としては、全面的に同意します。ただし、問題は(私自身のBad Englishを棚に上げて評論させていただくと)前澤氏の英語アクセントがBad Englishであるのは間違いないことですが、前澤氏は億万長者の会社経営者で、月に旅行する第一号となることを決めた勇敢な人物です。それだけでも、報道陣や一般の人々は、前澤氏のことを「勇敢な経営者」「グレートな経営者」と評価するはずです。そこで彼のBad Englishが、本当にアメリカ人からの心証を悪くしたのかどうか、です。

分かりやすく意味が通じることがもっとも重要

そこへ中間論の記事が出てきました。今度はロンドン在住の小林恭子氏の記事です。小林さんの意見を要約すると、「前澤氏の英語はたしかに日本人アクセントが強かったが、公式の場で、一定の知識人や報道陣の前で話すことを前提とすれば、分かりやすいこと、意味が通じることがもっとも重要なことであり、前澤氏のスピーチはこれを十分満たしていた。また英語を話す人々ですらさまざまなアクセントが共存している」という主張です。

私にとってもこの意見は、非常に腑に落ちますし、私の意見もこれに非常に近いものです。

暗唱する努力、必須準備ではあるが評価したい

私のほうから付け加えるならば、前澤氏のスピーチの良い点は、これだけの長い英語スピーチをメモも見ず、空で言えるまで暗唱していた点です。この点こそ、なかなかできることではありません。とくに前澤氏は超多忙な経営者であるはずなのに、裏にはかなりの努力があったはずです。しかも身振り手振りや「Oh」とか「Wow」といった感嘆詞を自然に言えるまで練習を重ねたはずです。その努力には敬意を表さざるを得ません。

総合的な心証としてはプラスが圧倒的

そして、通訳をつければつけられたのに、敢えて英語で臨んだ点。この積極的な姿勢と勇気については、米国や世界中の人々も評価する、せざるを得ないでしょう。つまり米国人は拙い英語アクセントは気にはしますが、それ以上に英語で話そうと努力し、その結果として分かりやすい英語で話してくれた人に敬意を表します。いや、実を言うと、「なにこのひどい発音の人は?」との心証を持つ一部の米国人がいるのは間違いないことです。しかし総合的にいえば、この状況をもろもろひっくるめて、プラスの評価が圧倒的に上回ると思われます。

練習するならアクセントと母音の矯正

一方で、前澤氏は、原稿の覚え込みやボディランゲージをはじめ、このスピーチを行うために多くの時間と労力を費やしたとは想像されますが、英語のアクセント(強く読む部分)の矯正にもう少し時間を使うとよかったと思います。なぜなら、英語が聞き取りやすいための一つの大きなポイントは、アクセントの置き方が正しいことだからです。

たとえば、インド人の英語や中国人の英語、シンガポール人の英語はそれぞれ癖があって聞き取りづらいものですが、アクセントの置き方は平均的な日本人アクセントと比べて、圧倒的に正しいアクセントで話しているのです。音の発音もたしかに大事ですが、それ以上にアクセントが大事です。前澤氏の英語は、アクセントが間違っているところが何か所もありました。これが聞き取りづらくしているのです。

アクセントの次に練習するなら、母音の矯正です。日本人はすぐに「th」や「r」と「l」などの子音の発音に注意を向けがちですが、聞き取りやすさに関しては母音を正しく発音しているかどうかがきわめて重要だからです。私がもし指導計画を立てるなら、まず原稿の暗唱は必須。次に、見てくれをよくするボディランゲージの練習より、確実にアクセントと母音の矯正を優先すると思います。

それ以外にも、間の取り方や抑揚や話すスピードやOhとかYeahの使い方など、指摘すればいくらも指摘できる点はあるのですが、海外帰国子女でもない日本の経営者がここまで立派な英語スピーチをされたのですから、これ以上、ここではいわないでもよいでしょう。(高橋眞人=プレゼンコーチ)

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