パワーポイントがプレゼンを殺す
日本企業におけるプレゼンは、なぜつまらないのだと思いますか? 自分の企画(商品)の詳細説明ばかりで、聞き手が聞きたいメッセージがないから。いちばん重要な聞き手の立場に立ったメッセージ構築がなく、準備のすべてがパワポ作成になっているからです。パワポありきが「がん」なのです。
実際、マイクロソフトのパワーポイントが現れて以降、人々のプレゼンが下手になりました。箇条書きをそのまま読む人が増えたからです。プレゼンを下手にする最大のがんは、パワポ。ビル・ゲイツもそのことは十分知っていました。なぜなら、ゲイツ自身も若かったころ、パワポの箇条書きを棒読みしていたため、プレゼンが下手だと評されていたからです。米国ではこれを「パワーポイントによる死」と呼んでいます。
箇条書きの読み上げはもっともダメなプレゼン
たとえば、商品の特長を箇条書きで読み上げている人。これがもっともダメなセールスプレゼンのパターン。大事なのは「ストーリー」です。とくに、お客様にどんな幸せな未来が待っているかを語ることです。
パワポの枚数はなぜ多くなる?
日本のパワポの枚数がどんどん多くなるのはなぜでしょう?本来、パワーポイントはプレゼンの補足ツールに過ぎないのにもかかわらず。それは偉い人も、「抜け」がない完璧な資料を要求するからです。しかしそれは断じてプレゼンツールの役割ではありません!
米国の大企業では「パワポ禁止」とか「10枚まで」とかそういう動きが起きています。あなたが偉くなったら、無駄に枚数の多いプレゼン資料を排するようにぜひお願いします。
デザインより大事なものは?
今度は質問です。企業ウェブサイトは、①美しいデザイン、②見込客に刺さるキャッチコピーのどちらが大事ですか? 企業サイトの95%においては、②が重要です。しかし、多くの企業幹部はなぜか①を重視しています。タレントのHPやアパレル企業ならいざ知らず、クールなデザインで顧客がやって来るでしょうか?
日本人がメッセージ戦略そっちのけでパワポ作成に夢中になるのはなぜなのでしょう?ウェブ制作でデザインばかりに凝るのはなぜでしょう?
おそらく無口でも作品の出来ばえさえ良ければという職人文化の影響でしょう。「言葉より実質(モノ)が大事」という考え方。それはそれで美しいのですが、欧米人はギリシャ時代以来、コミュニケーション(説得術)を重視してきています。中国人もそちら系です。それで日本は世界と戦っていけるでしょうか。私は心配です。日本人は本当に「コミュニケーション」の意味が分かっているのでしょうか?
欧米における言語コミュニケーションの技術化はギリシャ時代に始まりました。アリストテレス(前4世紀)は「説得の3要素」としてスピーカーの「ロゴス(論理)」「パトス(感情)」「エトス(価値観)」を挙げました。コミュニケーション学の古典です。こうした考え方は「レトリック(修辞学、説得術)」と呼ばれます。
コミュニケーションとは説得である
欧米世界におけるコミュニケーション(情報の伝達)は、「説得」の技術から始まったわけです。ロナルド・レーガン大統領の名スピーチライター、ペギー・ヌーナンは、「すべてのスピーチには目的がある」と述べています。
このようなコミュニケーションの考え方を、日本人は実はよく理解していないと思います。なぜなら、多くの人は「コミュニケーション」=「共感(sympathy)」=「心が通じ合える」と勘違いしている人が多いからです。「気持ちが通じ合う」。これはコミュニケーションの一部分ではあるかもしれませんが、本質ではありません。(高橋眞人)