弁護士の過剰な防衛がひどい状況をよりひどくする~ナビスコのケース

クッキーに「予期しない固形成分」でリコール

米国の菓子メーカー・ナビスコのチューイー・チップスアホイ(チョコチップクッキー)に「予期しない固化成分」が含まれていたとして、親会社のモンテリーザは2019年4月13日、同製品を自主的にリコールした。

「予期しない成分」をなぜ公表しなかったのか?

同社はプレスリリースを出し、この中で「潜在的な健康への悪影響がいくつかあり得るとの報告を受けている」と説明した。だが同社は、「予期しない」成分が何であるのか、また有害な副作用が何であるかを公表しなかった。同社は、この製品を購入した消費者は食べずに同社へ連絡することを勧めた。

消費者は最悪のケースを想像する

同社の説明によると、消費者から吐き気、息苦しさ、歯の損傷といった少数の健康影響の報告があった。これを聞いた消費者は、何を思っただろうか? 考えられ得る最悪のケースだ。機械油の塊だったかもしれないし、ネズミの糞だったかもしれない。

結局、「予期せぬ凝固成分」とは何だったのか。単なるコーンスターチであった。クッキーを焼く過程で固まったということらしい。

法律の専門家がリスクを恐れて説明を曖昧にする

ある米国の危機コミュニケーション(危機管理広報)の専門家は「責任の追及や損害賠償請求を恐れ、成分名を公表しないことをモンテリーザに勧めた弁護士が一人、二人はいたはずだ」と話す。ところが、酷い事実を隠蔽していることさえ匂わせる曖昧な説明は、逆に消費者の不安を膨らませることになった。

広報専門家は弁護士と意見が異なることを恐れるな

企業法務を担当する弁護士の仕事は、たしかに企業をリスクから守ることだ。しかし、将来の法的・財政的リスクを最小限にする目的から、社会から求められている情報を開示しなかったり、社会に対する説明における明快さを犠牲にしたりすることが時折ある。

こうしたとき、危機コミュニケーションの専門家は、社会からの理解を獲得し、不要な非難や攻撃を受けないため、弁護士の意見と対立したとしても、より明確でシンプルなメッセージの伝達を主張しなければならないときがあるといえるだろう。(高橋眞人)

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