下手な謝罪が状況を悪化させる~メディアトレーニングの重要性

ハンカチを取り出し涙を何度も拭った社長

企業による下手な謝罪は時に状況を悪化させる。旭化学工業は住宅施工データを改ざんしたことが明るみになったことから、2015年10月20日に記者会見を開いて謝罪した。同社の浅野敏雄社長はカメラマンのフラッシュがたかれる中、7秒間深く頭を下げた。記者会見開始から30分経過したとき、浅野社長は左手をズボンのポケットに入れ、ハンカチを取り出し、何度も涙を拭った。カメラのシャッターの音が部屋中に鳴り響いた。これについて、米国の危機管理専門家は「涙はその人の弱さを表わす。 泣きたいのは建設会社ではなく、住人のほうである。危機状況下において経営トップは、精神的、肉体的、そして知的な強靭さが求められるため、トップの態度は消費者を不安にさせることがある」(ヘイモウィッツ)と述べている。

「人生を取り戻したい」とつぶやいたCEO

もう一つの下手な謝罪会見の例は、2011年に東京電力が大津波による福島第一原子力発電所の事故発生を受けて行った記者会見だ。東京電力の社長は事故発生から6か月も待たせた挙句にやっと会見し、謝罪の言葉を発したことで、非難を浴びた。

一方、英石油会社BPによる石油流出でメキシコ湾が汚染された事故の後、トニー・ヘイワードCEOは「人生を取り戻したい」とつぶやいたのを見て、油田で働いていて事故で死亡した従業員11人の遺族らはCEOの薄情さに激怒したという。

謝罪が遅いという非難

企業トップは、難局に当たっては対外的なスポークスパーソンにならなくてはならない。しかし、タカタの高田茂久社長は、同社が米国家道路交通安全局(NHTSA)に7千万ドルの罰金を支払うことで合意してから7か月もの間、会見を開かなかったため批判を浴びた。世界最大の自動車メーカートヨタでさえ、2009-2010年にかけて起きた大規模リコールに関する社長の公的謝罪が遅かったとして非難された。トヨタの豊田章夫社長は2010年2月5日、顧客に不安を与えたことについて初めて謝罪した。豊田社長の謝罪は、アメリカで最初のリコールを発表してから2か月も経過してからだったと批評された。一方、豊田社長は同社のチーフ・コミュニケーション・オフィサー、ジュリー・ハンプ氏が非合法ドラッグを国内に持ち込んだとして逮捕されたその同じ日に記者会見を開き、謝罪を行ったが、このときはその迅速さが称賛を受けている。

日本ではとくに高いトレーニングの必要性

下手な謝罪は状況を悪化させる。とくに謝罪の形式や段取りが細かく要求される日本では、多くの大企業幹部が謝罪会見のトレーニングを受講し、どのように謝罪会見でお詫びを言い、頭を下げ、メディアからの質問に答えればよいかを学ぶ必要がある。 (高橋眞人)

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